「こういう者だが」。東京都世田谷、渋谷区のコンビニや美容室、ドラッグストアなど11店舗に2月、稲川会系暴力団組員(51)が訪れた。組員は組の名称が入った名刺を店員に見せ、「バイアグラ5錠1万2000円、10錠2万円、20錠3万8000円。電話をくれればお届けします」とのチラシを示した。
店員が「いらない」と答えると、組員は「客にこっそり渡せば喜ぶし、口コミで客も増える。ほかに裏ビデオもあるよ」と食い下がった。だが、いずれの店でも店員に断られ、売れなかったという。
情報を入手した警視庁組織犯罪対策3課は4月、同様の行為を繰り返す恐れがあるとして、暴力団対策法に基づき組員に再発防止命令を出した。組対3課は暴力団の威力を示してバイアグラを流通価格より約4割高く売り付け、差額分を用心棒代として徴収する意図があったとみている。
組対3課によると、縄張り内の飲食店に正月飾りや芳香剤などを購入させたり、みかじめ料を要求する従来型のしのぎ(稼ぎ)に加え、最近は「知り合いの屋形船で食事会を開催するから参加しないか」と持ち掛け、参加費を要求するケースも確認された。1店当たりの単価を下げ「広く薄く」徴収するのが最近の傾向という。
警視庁は09年、みかじめ料を要求した組員らに対し、532件の中止命令を出した。08年比で62件増で過去最多、全国で最も多かった。中止命令を出していなければ、約3億4000万円が暴力団に流れた計算になる。
一方、08年の暴対法改正で組員が団体の名称などを示し現金を脅し取ろうとした場合、組トップの賠償責任が問われるようになったため、弁護士などを招き暴対法の勉強会を開く暴力団もある。ある組は、組員が中止命令を受けた店のリストを作成し、再訪問しないよう指導。「ヤクザ風の服を着ない」「組員の不始末は指詰めではなく、金銭で解決する」などと定める組もあるという。
【ことば】中止命令
92年施行の暴力団対策法で規定された。指定暴力団や関係者が用心棒代などの不当な要求をした場合、警察署長が中止を命令できる。命令に従わず同じ対象者に同様の要求をした場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる。令状なしに命令できるため被害に迅速に対応できる。特定の店舗以外を対象に同様の不当要求が予想され、禁じる場合は、再発防止命令が出される。
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